ニライカナイの海から見えたこと

 民主党沖縄県連は4月11日、普天間基地移設候補先として取りざたされている勝連半島沖を船で視察し、地元住民との意見交換会を開催した。今から37年前、勝連半島はCTS(石油備蓄基地)建設反対運動で燃えていた。CTS誘致派の中心人物は、現在勝連沖移設案を平野官房長官に持ち込んだと言われている太田範雄氏である。私は、反対派「金武湾を守る会」の安里清信さんからの「住民運動を頑張ってるおじいちゃんやおばあちゃんを歌で勇気づけてほしい」との依頼に応え、演奏に行った。これが私の住民運動参加へのスタートとなり、政治への関心を高めるきっかけとなった出来事だった。
 そもそも勝連沖移設は、私が3月10日に官邸を訪れ、平野官房長官から聞き出した案だ。長官は3月21日、うるま市議会議員4人を官邸に呼び、この案の受け入れを他の市議に説得するよう依頼したという。その経費は官邸側が持ち、ここでも官房機密費が使われた疑惑が生じている。官房長官も会見で、事務所費用や官房機密費などから拠出した可能性について問われると「そういう事実はどういうとこから導いてこられるのかわかりませんから、コメントは控えたい」と述べるにとどまり、否定しなかった。うるま市議会は3月19日に、「与勝会場沖への普天間飛行場の移設に反対する意見書(案)」を全会一致で可決している。その後の21日に平野氏と面談していることが事実とすれば議会軽視も甚だしいと、地元うるま市では、官房長官への批判の声があがっている。また、官房長官の選挙区である大阪のマリコン業者が、勝連沖の水域を調査に入ったという噂も流れている。民主党政権は、国民への情報の開示を掲げているのだから、長官は官房機密費の使途公開についても、普天間基地移設交渉についても、国民に開かれた形で堂々と行うべきではなかろうか。
 長官は勝連沖案の有効性について、「勝連沖のサンゴは死滅している。漁協も賛成だ」と言っていた。だが視察してみると、船の上からでも群生するサンゴがはっきりと確認できた。地元住民との意見交換会では、「大漁と島の発展を願う行事『サングヮチャー』の時に、祈りをささげるナンザ岩まで平安座島から歩いて渡れなくなる。埋め立てされる海域は、太陽が昇ってくる場所だ。沖縄には、東の海の彼方から五穀豊穣がもたらされるというニライカナイ信仰がある。我々に昇る太陽の代わりに、ヘリ基地から昇るヘリを拝めというのか」、「やっと若い漁民も増えてきた。東海岸は観光資源として活用すべきだ」、など様々な意見が出た。
 かつてCTS闘争当時誘致派だった人が、私に近づいてきてこう語りかけた。「CTS当時は、『島ちゃび(離島苦)』を抜け出すための海中道路建設という悲願があり、これを錦の御旗と受け止め賛成した。当時は、賛成反対に島が二分され、多くの島民が苦悩を味わった。しかし、今は経済効果という誘惑では錦の御旗は立たない。平野官房長官が現場を視察すれば、こんなきれいな海を埋め立てることはできないと思うだろう。私は、鳩山総理を信頼している。総理がこの埋め立てに反対してくれることを願っている」ーーー。
 鳩山総理にも島民の訴えを届けて、英断を下してもらえるよう、私も努力を続ける。

内閣官房機密費の怪

今年1月に行われた名護市長選で、辺野古移設容認派の陣営に官房機密費が使われたという噂を聞き、3月23日の予算委員会で真偽を質問した。平野官房長官の代わりに答弁に立った岡田外務大臣は事実を否定し、鳩山総理大臣は、官房機密費の公開を約束した。このように、機密費投入の噂は後を絶たない。
名護市長選直後に、平野官房長官の肝いりで内閣官房沖縄連絡室が設置された。消息筋によると、その理由は、名護市長選の情勢分析に当たった、外務省沖縄事務所と沖縄防衛局が、官邸に「島袋候補優勢」という報告をあげ、その予測が見事にはずれたからだという。同筋によると、平野官房長官は、市長選直後、島袋氏を官邸に呼び出し叱責し、外務省、防衛省の情勢分析があてにならないから、官邸直属の機関を沖縄に置くことを即決した、という。実際、官邸のスタッフに名護市長選の情勢を尋ねられた記者は、「『うち』は優勢なのかのという質問の『うち』とは、島袋候補を指していた」と語っている。「名護市長選の結果は斟酌(しんしゃく)しない」という発言は、こうした背景があって出たものかと勘繰りたくなる。
民主党は、小沢幹事長の指揮の下、陳情要請の県連一元化を実施しているが、沖縄だけは県連を通さず内閣官房沖縄連絡室を通した陳情がまかりとおっている。それも県連からの問い合わせに対して、1件しか陳情を受け付けていないと回答した沖縄連絡室だが、調査してみると140件以上の陳情を受け付けていたことが判明した。この件を我が県連が小沢幹事長に報告すると、幹事長も「それは県連が怒るのも無理はない」と理解を示した。平野官房長官は、沖縄連絡室を動かし、11月の知事選も県内移設容認派が勝利するよう画策していると言われている。沖縄の民意を無視したこうした動きには、必ず強烈なしっぺ返しがくるだろう。

うるの会解散

 本日16:30から行われた私が会長を務める「うるの会」の会合で、会の解散を決定した。「うるの会」は発足時に、普天間基地辺野古移設について反対であることを確認し、協議事項に関しては全会一致とすることとした。
 しかし、会員の一人が全員の承認を得ないまま、普天間基地移設問題を会の議題から外すことを決め、さらに辺野古陸上案を政府の基地問題検討委員会に提案し、承認事項を破った。昨年の総選挙、今年の名護市長選挙沖縄県議会の決議、名護市議会の決議と、沖縄の民意は一貫して「県内移設反対」だ。
 県民の付託に応えるためにも、私から解散を提起し全員の了承を得て、本日解散することを決定した。今後とも私は、県内移設反対を貫いていく。

雑誌世界3月号インタビュー

雑誌「世界」3月号
喜納昌吉氏インタビュー

 ―― 民主党も推した辺野古反対派の名護市長選勝利、おめでとうございます。この勝利の意味をどうお考えですか。

 喜納  常に「アメとムチ」の政策をとられてきたことに対して、市民・県民が自我に目覚めたということだ。基地建設は環境を重視する日米政府の方針に反する。政府はしっかりと民意をくみ取るように伝えたい。

 ―― 鳩山政権の最大のテーマが普天間移設問題になってきました。喜納さんは、民主党沖縄県連の代表として、この普天間基地の移設はどうあるべきかと考えていますか。

 喜納  第一に、基地の存在そのものが二一世紀にふさわしくないでしょう。人類が三千年の間に五千回も戦争をして来たと言われているが、そんなことが出来たのは地球は無限だという無意識の観念があってのこと。しかし、もう地球も水も空気も有限だということがわかっている。基地は、人類のグローバル・ビジョンから見ても必要がない。美しい辺野古の海を埋めて自然を破壊することは、オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策にも核廃絶の訴えにも反するだろう。鳩山首相二酸化炭素を九〇年比で二五%削減するというビジョンにも東アジア共同体という考えにも反している。つまり、オバマ大統領や鳩山首相のビジョンが本物かどうか、沖縄の基地問題リトマス試験紙になっている。 しかし、地元沖縄の人々は脇に置かれて議論されている。日本の政治では基本的に沖縄は異民族であるという潜在的な意識を露骨に示している。歴史的政権交代といわれるが、この「歴史」の中に「沖縄の歴史」が含まれているのか問わなければならない。もっとハッキリいうならば、「沖縄民族は日本人なのか」、このことの総括は復帰以降文化人や政治家たちが怠ってきた命題なのだ。〇九年は薩摩藩による琉球侵攻から四〇〇年の節目にあたった、これを契機に、タブーとされてきた歴史を総括していかなければならない。
 そもそも普天間の基地は危険だから移設すると誇張しすぎるきらいがある。真実の視点に立てばどこに移設しようが危険であることに変わりはなく、この論理は破綻している。普天間が危険だというのは、橋本政権時代にいきなり言われ出した。普天間は大田県知事(当時)の基地返還計画に最初は入ってなかったのに、時の政権が押し込んだ節がある。そしてメガフロートの話になっていった。

 ―― 辺野古の沖に巨大な基地を浮かべるという……。

 喜納  九六年四月に橋本首相が大田知事に電話して、普天間基地を県内移設する承諾を得たといわれている。当時、鉄鋼不況だったため、新基地建設案に日本の利権集団が飛びつき、大田知事と橋本政権に押し込んだのであり、米軍の戦略を持ち込むには格好の材料であったのだろう。しかし、辺野古移設が条件とされることに住民の反対運動が燃え上がり、大田知事は住民側に舵をきらざるを得なくなった。その事は橋本首相の歴史的手柄を奪うことにもなり、その後の大田県政への政府の冷たい対応は、橋本首相の直接の怒りを買ったのであろう。浮体工法案の浮上は、実は私も関係していた。九四年ごろ、李玖(イグ)殿下(明治時代に伊藤博文が日本に連れてきた朝鮮李王朝の李垠の子)と交流があったことから始まる。李殿下は日本から受けた李王朝の悲劇を話してくれて、琉球王朝と同じ運命を感じ、交流を深めなくてはいけないと思っていた。李殿下が浮体工法の研究家でその技術を持っていることを知り、すぐに新石垣空港問題が頭に浮かんだ。当時、アオサンゴのある白保の海を埋立てる計画が大反対運動を巻き起こしていた。しかし、埋立てない浮体工法なら問題が解決できるのではないかと思い、「沖縄で使いませんか」と言うと喜んで承諾してくれた。早速、大濱石垣市長に繋ごうとしたが、友人が仲介したクリスティンソン米国総領事(当時)とのセッティングが先になってしまった。そこで浮体工法の話がでて、総領事が強く関心を示し米側に繋がっていったという事実がある。
 その後、李殿下のパートナーから「殿下の技術が辺野古の基地建設に採用され、県道104号線越えの演習も本土に分散されることになりました」という連絡が入った。私は困惑し「その技術は平和のために使ってほしいのであって、軍事のために使うのはやめてほしい」と伝えたが、その後なぜか連絡は途絶えてしまう。
 九五年には少女暴行という県民が驚愕する事件が起こる。この悲劇の事件は、当初少女の人権を考え記事にされなかったものが、数日経ってから大きく報道され始めた。連日の報道の過熱で、県民の怒りは増幅されていき、県民の叫びに応えるようにSACO(沖縄に関する特別行動委員会)は立ち上がっていくのである。〇四年には沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した事故直後に、感情を逆なでするかのように辺野古にボーリング調査が入り大々的に報道されて、沖縄の基地問題は全国に広がる。その時から沖縄の過重負担を分担しようという同情論に国民世論が形成されていく。時を同じくして米軍再編というモンスターが姿を現し、日本の安全保障政策にも大変革が起こってくるのである。
かつて、在沖米軍四軍調整官スタックポールが「キャンプ・キンザーは補給基地だから、もし返還するときがあればそれは海兵隊も引き上げるときである」といった内容を当時大田知事に語ったと言う。スタックポールは「沖縄の米軍は日本の軍国主義を抑える『瓶の蓋』だ」とも言っている。一連の米軍再編の流れを推察していくと、米国は安倍政権でこの「瓶の蓋」を開けようとしたのではないだろうか。強引に国民投票法を成立させた意味もそこにあるのではないか。しかし民主党政権交代し当初の計画は頓挫したのであろう。米国が日本国憲法作成に関与し、三分の二条項という高いハードルを設定しながらも手続きの国民投票法が今までなかったのは、「憲法の不作為」ではなく「米国の作為」と見たほうが納得がいく。では今になって、「瓶の蓋」を開ける意図はどこにあるのか、我々は深く洞察しなければならない。それは日本の陸海空自衛隊が米軍のコントロール下に入ったということではないか。スタックポールの話は、決して平和のメッセージではなく、東アジアがより危険になるということを示唆している。
中国の飛躍的発展は日本をはさんで米中をより接近させ、G2と呼ばれるまでになり、アジアの未来は明るく映っている。しかしまだ東北アジアの不安定要素として台湾と北朝鮮は存在し、リーマンショックに始まった世界的金融危機は、アフガンとイラクで泥沼化した米国に打撃を与え、ドルを基軸通貨とする支配体制に翳りを落とさせている。米国債を多く抱える日中と米が景気の二番底を迎えたり米国がデフォルトに陥った時、あるいはホルムズ海峡が封鎖された時、東アジアの安定を保つことができるのかが問われているのである。
QDR(米国防総省の中長期的戦略文書)には、「予測不可能な状況がどこで発生しても柔軟で迅速な対応を可能にする場所に基地設置を目指し、同時に海外の基地を削減する」とある。ゲーツ国防長官は上院で「沖縄の海兵隊のグアム移転は、中国の軍拡の脅威からの逃避が目的だ」との考えを示した。それらが物語るのは何だろうか。かつてのアフガン戦線の北部同盟のように、対中国の前方展開に韓国軍や台湾軍や日本の自衛隊を出し、米国は一歩下がって司令塔だけでコントロールしようとする戦略がそこから見えてくる。沖縄から海兵隊を一番帰したいのは、沖縄県民よりも実のところ米国だと思わざるを得ない。米海兵隊の家族は本国に引き上げ、司令部がグアムに残り後方支援に廻ることが本音であろう。それをあたかも反対派の熱望に応えるように見せるところに米戦略のマジックがある。

 ―― では、なぜアメリカは辺野古移設が現実的だと言って、日本政府に強く圧力をかけているのでしょうか?

 喜納  グアム移転費を日本にもっと出させたいということでしょう。米国は政権交代を予測して、辺野古問題をグアム協定を結ぶことによって閣議決定から二国間協定に引き上げた。日米地位協定では、外国への移転に日本の負担義務はない。負担する積算根拠を与えるためには、県民が徹底して反対運動をし、それに国民が同情し、お金で解決しようという精神構造を作り上げることが必要なのだ。もうすでに、実体をともなわないパッケージ論に嵌められ5000億円の供出を強いられている。
 また、中国包囲網を見据えているならば、那覇以南の宮古八重山等の南西諸島の空洞地帯を埋めることによって安全保障が完成する。下地島空港には頻繁に米軍機が飛来している。南大東島の港も整備され、北大東島港も伊良部大橋も新石垣空港も建設中で、与那国島には米軍艦も寄港し、陸自配備案も浮上した。那覇港の大型バースは完成し、那覇空港には並行滑走路が計画中で、空港と那覇港を結ぶ海底トンネルも開通した。辺野古は潜水艦も入れる地下トンネル建設の噂も絶えないし、隠された軍港建設計画の方が問題だ。嘉手納より南の基地返還の意図は、県民から見えにくくするために北部にコンパクトに基地を集約することだと指摘する識者もいる。めまぐるしく展開されていく様々なインフラ整備は、費用対効果も考えて本当に民間使用のみなのか疑問が湧いてくる。
六六年の米海軍マスタープランでは、辺野古は嘉手納基地が破壊されたときの代替基地のはずだったが、現行の有事法制下で那覇空港の新設並行滑走路が出来上がることで補足されることになる。出来るだけ基地候補地を造っておけば、「有事の際の施設使用」でいかようにも展開できるところに、マジックの本質がある。 
私が危惧するのは、強制集団死に関する教科書検定問題でも露わになった旧日本軍の総括されていない精神構造をそのまま持ち込むことになり、鳩山首相の「駐留なき安保」と民主党右派の唱える「国防の自立こそが真の独立である」ことが利用され、沖縄民族に新たな不幸を課し、沖縄と日本の間に新たな分断の歴史が生まれることである。
今後民主党政権が注意しなければならないのは、日米軍産複合体によって描かれた図面に取り込まれないことである。日米同盟権益者が与党にも野党にも潜り込み、両方がハンドリングできるように布石を打ってくるはずだ。今は五五年体制の自民党社会党時代に見られた古い体質のアメリカが作ったダブルハンドルを国民の手に取り戻せるかどうか、その攻防なのである。日本の未来のためには同じ民主党議員であっても問い質していかなければならない。こういった米国のネオコン系の目論見を一番気付いてるのは小沢幹事長ではないだろうか。強引な小沢幹事長への検察の圧力も根はそこにある。まさに日本の真の独立が問われているのである。
 EUではリスボン条約が締結され憲法条約が発効されることになり、一〇年から事実上のEU合衆国が誕生し、EU大統領と外相が生まれる。NATO軍はEU軍に変容し、国際連帯税も導入され、国連を媒体に世界政府が台頭してくる兆しも見え始めている。オバマ大統領が米国のゴルバチョフにならぬよう、中国が急激な発展の反動に潰されぬよう、日本の民主党政権が、内部の不協和音を取り除き、オバマ大統領を支持した米国と目覚めた中国が力を合わすよう取り持つくらいのリーダーシップを発揮することだ。
今日本に必要なことは、グローバルな世界の大変革に対し、科学、文化、政治、宗教等あらゆるベクトルが、戦争に従事している戦争文明から、病み疲れた地球を再生する方向へとシフトし、「地球が最初」であるという人類の未来ビジョンを掲げることだ。